こんにちは、キクタ(@qikta)です。
2026年8月21日から大阪中之島美術館で始まる「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」。展覧会へ行く前にフェルメールのことをもう少し知りたくなり、『もっと知りたいフェルメール 改訂版』を購入しました。
僕が知っていたのは、《真珠の耳飾りの少女》や《牛乳を注ぐ女》といった有名な作品が中心です。暗い室内に窓から光が入り、人物が静かに何かをしている。フェルメールにはそんなイメージを持っていました。
ところが本を開いてみると、最初からその作風だったわけではありません。
若い頃は聖書や神話を題材にした大きな物語画を描き、そこから室内の何気ない時間を描く画家へ移っていきます。今回日本に来る《ディアナとニンフたち》と《真珠の耳飾りの少女》は、その変化の両端を見比べられる組み合わせでした。
なぜこの2作品が一緒に展示されるのか。本を読んだあとでは、展覧会の見え方が少し変わります。
フェルメール展の開催情報やグッズについては、こちらの記事にまとめています。



『もっと知りたいフェルメール 改訂版』は比べながら読める入門書


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | もっと知りたいフェルメール 改訂版 |
| 著者 | 小林賴子 |
| 出版社 | 東京美術 |
| 発行 | 2017年7月 |
| 価格 | 1,980円(税込) |
| 判型・ページ数 | B5判・87ページ |
| ISBN | 978-4-8087-1093-4 |
本書は、フェルメールの作品を制作時期に沿ってたどるだけでなく、作品同士や同時代の画家と比べて見られる構成です。
掲載されている作品を順番に眺める。細部を拡大して見る。似た題材の絵を横に並べて違いを探す。
美術史の言葉を覚えるというより、見る場所を教えてもらう本でした。B5判で87ページなので、展覧会前に読み切りやすいのもうれしいところです。
なかでも僕が面白かったのは、人物の手に注目したコラムです。手紙を持つ、楽器に触れる、牛乳を注ぐ。大きな動きのない絵でも、手を見ると人物が何をしているのか、その前後にどんな時間があるのかを想像することができます。
本を読んで分かった3つのこと
最初から「静かな室内」を描いていたわけではない

フェルメールは、初期には聖書や古典神話を扱う物語画を描いていました。今回来日する《ディアナとニンフたち》も、その時期の作品です。
その後、24歳頃から室内で過ごす人々へ題材を移していきます。手紙を読む女性、楽器を演奏する人、牛乳を注ぐ女性。僕が思い浮かべていたフェルメールらしさは、画家として進むなかで見つけた表現だったみたい。
初期から晩年までを続けて見ると、「有名な青と光の画家」という一言だけでは足りないなと。
光だけでなく、手と視線を見る

フェルメールの作品では、窓から差し込む光に目が向きます。ただ、本を読みながら作品を見直すと、人物の手や視線、小物の置き方も気になり始めました。
人物は何を見ているのか。手はどこに触れているのか。机や椅子、カーテンは、画面をどのように区切っているのか。
はっきりした事件が描かれていなくても、細部を追うと時間が動き出します。この「何が起きているのだろう」と立ち止まれる余白が、僕にはいちばん面白く感じられました。
青色と小さな光には、かなりぜいたくな工夫がある

フェルメールは、ラピスラズリから作られる高価な天然ウルトラマリンを使いました。目立つ青い布だけでなく、陰影にも青を重ねていたとされています。
一方、光の反射は小さな点や短い筆触で表現しています。《真珠の耳飾りの少女》の真珠も、細密に輪郭を描いたものではないようです。明るい筆触がわずかに置かれ、見る側の目が丸い真珠を補っています。
近くで見ると絵の具の跡なのに、少し離れると光へ変わる。これは実物の前で確かめたいところ…。
本は「全作品32」、現在の美術館解説は「36」

本書の目次には「フェルメール全作品32」とあります。一方、マウリッツハイス美術館の現在の画家紹介では、知られている作品を36点としています。
数字が違うと戸惑いますが、単純な間違いとは限りません。フェルメールは残された作品が少なく、本人の作品かどうかについて研究者の判断が分かれるものもあります。帰属をどう判断するかによって、資料ごとに点数が変わります。
展覧会の公式サイトが「わずか30数点」と表現しているのも、そのためかなと。
今回、日本に来るフェルメール作品は2点
今回の展覧会には、マウリッツハイス美術館が所蔵する全12作品が出展されます。そのうちフェルメール作品は、次の2点です。
| 作品 | 制作年 | 大きさ | 本を読んだあとに見たいところ |
|---|---|---|---|
| 《ディアナとニンフたち》 | 1653〜1654年頃 | 97.8×104.6cm | 初期の物語画、人物のまとまり、静かな空気 |
| 《真珠の耳飾りの少女》 | 1665年頃 | 44.5×39.0cm | 顔に当たる光、青いターバン、真珠の筆触 |
同じ画家の作品ですが、大きさも題材もかなり違います。《ディアナとニンフたち》は縦横約1m、《真珠の耳飾りの少女》はその半分ほどです。
図版では同じくらいの大きさに見えてしまうので、この差は会場へ行って初めて実感できそうですね。
《ディアナとニンフたち》で初期のフェルメールを見る

《ディアナとニンフたち》は、フェルメールがデルフトの聖ルカ組合へ入った直後に描いたと考えられている初期作品です。
月の女神ディアナと4人のニンフが休む場面で、ディアナの額には三日月、足元には猟犬が見えます。ひざまずいた女性が足を洗う姿も描かれています。
1999年から2000年の保存修復では、青空が後世の加筆だと分かったようです。現在は、夕景を思わせる本来の暗褐色のトーンに近づけられています。作品が完成した17世紀だけでなく、その後をたどってきた時間まで見える絵です。
《真珠の耳飾りの少女》は肖像画ではない

《真珠の耳飾りの少女》は、特定の人物の肖像画ではなく「トローニー」と呼ばれる人物習作です。実在人物の身分や名前を記録するより、表情、衣装、光の効果を見せるために描かれました。
だからこそ、少女が誰なのかという答えはありません。こちらを振り返り、何かを言いかけたような口元だけが残されます。
真珠は現実には大きすぎるため、模造品か、画家が想像して描いたものとも考えられているみたい。
本を読んでると、むしろ「僕は何を見て真珠だと思っているのだろう」と気になります。本物を前にしたら、少女の顔だけでなく、真珠の周りに描かれずに残った部分まで見てみたいですね。
今回は日本に来ない、比べておきたい代表作5点
フェルメールのオリジナル作品として展示されるのは2点だけです。ここでは本を読みながら気になった作品のうち、今回の展覧会には来ない代表作を5点に絞りました。
| 作品 | 所蔵館 | 来日2作品と比べたいところ |
|---|---|---|
| 《デルフトの眺望》 | マウリッツハイス美術館 | 人物ではなく街に広がる光と静けさ |
| 《牛乳を注ぐ女》 | アムステルダム国立美術館 | 日常の動作を大きな存在に見せる構図 |
| 《絵画芸術》 | ウィーン美術史美術館 | 画家、モデル、地図を重ねた大きな室内画 |
| 《窓辺で手紙を読む女》 | ドレスデン国立古典絵画館 | 修復で現れたキューピッドと手紙の意味 |
| 《天秤を持つ女》 | ワシントン・ナショナル・ギャラリー | 天秤、人物、背景画が作る均衡 |
同じ美術館に残る《デルフトの眺望》

いちばん意識しておきたいのは、《デルフトの眺望》です。
《真珠の耳飾りの少女》《ディアナとニンフたち》と同じマウリッツハイス美術館の所蔵ですが、今回は来日しません。同館が所蔵するフェルメール3作品のうち、日本で見られるのは2作品ということになります。
《真珠の耳飾りの少女》とはまったく違う題材なのに、同じ画家だと思える静けさがありますね。
日常の一瞬を描いた《牛乳を注ぐ女》

《牛乳を注ぐ女》では、女性が器へ牛乳を注いでいます。大きな事件はなく、動いているのは細い牛乳の流れだけ。それでも、人物とテーブルが画面の中でどっしりと存在しています。
パンや器に置かれた小さな色の点は、近くでは絵の具、離れると光に見えます。《真珠の耳飾りの少女》の真珠を見る前に、この光の作り方を知っておくと比較しやすそうです。
(なかやまきんに君のCMで覚えた方も多いかと笑)
部屋そのものに意味がある《絵画芸術》

《絵画芸術》は、画家がモデルを描くアトリエの場面です。モデルは歴史をつかさどるミューズのクリオに扮し、壁には大きな地図が掛かっています。
室内画ではありますが、約120×100cmとフェルメール作品のなかでは大きな絵。
何気ない暮らしというより、絵を描くこと自体を扱っています。《ディアナとニンフたち》の大きさと、《真珠の耳飾りの少女》の成熟した光の表現が特徴的だそうです。
修復で見え方が変わった《窓辺で手紙を読む女》

《窓辺で手紙を読む女》は、長いあいだ無地の壁を背景にした静かな作品として知られていました。修復によって、壁を覆っていた後世の絵の具が取り除かれ、キューピッドの画中画が現れています。
背景に愛の神が戻ったことで、女性が読む手紙を恋文として受け取りやすくなりました。
以前三菱一号館美術館に来日し話題を呼びましたね。また来てくれるといいな。
静けさの中に判断を置く《天秤を持つ女》

《天秤を持つ女》では、女性が空の天秤を持ち、背後には「最後の審判」の絵が掛かっています。机の上には宝石や金貨があり、日常の室内と人の判断をめぐる題材が重なります。
天秤、女性の手、背景画の中心が呼応し、画面全体が均衡しています。
フェルメールの静けさは、何も起きていないからではなく、物と人物が慎重に置かれているから絶妙なバランスが心地いいですね。
来ない作品は20mスクリーンで全体像をつかめる
5作品の実物は今回展示されませんが、会場には全長20mの大型スクリーンを使った「フェルメール・イマーシブ・ギャラリー」が設けられます。
世界各地に所蔵される作品を実際の比率に基づいて見せながら、画家の生涯や光の表現をたどる内容です。
もちろん、絵の具の厚みや本当の大きさを実物と同じように感じることはできません。それでも、本で見た作品がどの時期にあり、来日する2作品とどうつながるのかを整理する助けにはなりそうです。
オリジナル2作品を見る部屋と、全作品をたどるスクリーン。僕はこの順番を行き来するのも楽しみにしています。
会場で確かめたい4つのポイント
本を読んだことで、会場で見たいところが具体的になりました。
- まず離れて、2作品の大きさと人物の配置を見る
- 近づいて、手、視線、真珠などの小さな筆触を見る
- 初期と成熟期で、光と色がどう変わったか比べる
- 来ない代表作を思い出し、共通する静けさを探す
知識を全部覚えてから行く必要はありません。僕も作品名や制作年を暗記したわけではなく、「手を見る」「2作品を比べる」と決めただけです。
それだけでも、人の多い展覧会で有名作を見て終わるのではなく、自分が気になった場所で少し立ち止まれそうです。
まとめ|本で覚えたことを、2作品の前で確かめたい

『もっと知りたいフェルメール 改訂版』は、フェルメールの生涯だけを文章で追う本ではありません。作品を大きく見て、細部へ近づき、別の絵と比べる本です。
そのため、僕のように《真珠の耳飾りの少女》は知っているけれど、ほかの作品や時代の変化はよく知らない人が、最初に読む一冊として入りやすいと思います。
僕は今回、《真珠の耳飾りの少女》を見るために本を買いました。でも、読み終えていちばん楽しみになったのは、初期の《ディアナとニンフたち》との違いを自分の目で確かめることでした。
一冊読んだことで、目玉作品が一枚から二枚になった。それだけでも、展覧会前に買ってよかったです。
フェルメール展の開催情報やグッズについては、こちらの記事にまとめています。



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